跳ねる柑橘の段ボール箱

柑橘系アラサー男子が、思うところを書くところ

マレーシアvs北朝鮮 「出国禁止措置」合戦の考察

こんにちは、跳ねる柑橘です。

前回の記事で、

金正男氏殺害事件にかかわるマレーシアと北朝鮮の対立を書きました。

hoppingnaranja.hatenablog.com

 

3月7日にもまた事態が進みました。

時事性があるものなので追いかけ続けると大変なのですが、

また今回の対立について、堅苦しい国際法というルールの観点から見てみましょう。

 

 

(目次)

 

 

 

あらましと争点

あらまし

3月5日まで

マレーシア政府は、

①在北朝鮮マレーシア大使を本国に召還

北朝鮮国民のビザなし渡航を禁止

③在マレーシア北朝鮮大使にペルソナノングラータ(国外退去措置)

といった措置をとる。

 

3月6日

朝、北朝鮮日本海に向けてミサイルを発射。

昼、在マレーシア北朝鮮大使のカン・チョル氏がマレーシアを出国。

なぜかエコノミークラスに搭乗し、北京に立ち寄る。

 

3月7日

北朝鮮が、在北朝鮮マレーシア大使(既にマレーシア本国に召還済)に対し、

ペルソナ・ノン・グラータを発動。

また、北朝鮮にいるマレーシア人の出国を禁止

 

マレーシア政府はこれを受け、

「我が国国民を人質にとる行為だ」と反発し、

同様にマレーシアにいる北朝鮮国民の出国を禁止

両国の対立が修復不可能なレベルになった。

 

出国禁止措置が問題

今回の争点は、「出国禁止措置」にあります。

自国にいる他国の国民に限定して、出国禁止にするという行為は、許されるのでしょうか?

 

 

国の行為を規定するのが「国際法

国際社会で国がとる行動を規定するルールを国際法といいます。

国際法には条約と慣習国際法があります。

条約は、批准した国(署名して、そのルールに加わった国)だけに

適用される法律です。

慣習国際法は、国際社会にいるすべての国が守るべきルールです。

極めて基本的な権利や当然のルールとして、全員が守るべき基本ルールですね。

(慣習国際法を守るべき主体=法主体には、国際機関などが加わる場合もあります)

 

今回の対立で関係してくる国際法は、

①世界人権宣言

②外交関係についてのウィーン条約

③国家責任

です。

③はあとで説明するとして、①と②を見てみます。

 

①世界人権宣言

1948年の第3回国連総会で採択された「宣言」です。

名の通り、地球に生きるすべての人が持つ人権について高らかに掲げられた宣言です。

この13条が今回関係してきます。

十三条
1  すべて人は、各国の境界内において自由に移転及び居住する権利を有する。
2  すべて人は、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有する。

世界人権宣言

 条文と今回の措置を考えると、モロに反してますね。

 

②外交関係についてのウィーン条約

前回の記事にも出てきましたね。

外交関係における制度や、外交官の地位を規定した条約です。

1964年に発行しました。

この、26条、29条あたりが関係しそうです。

第26条 移動および旅行の自由

接受国は、国の安全上の理由により立入りが禁止され又は規制されている地域に関する法令に従うことを条件として、使節団のすべての構成員に対し、自国の領域内における移動の自由および旅行の自由を確保しなければならない。

 

第29条 身体の不可侵

外交官の身体は、不可侵とする。外交官は、いかなる方法によっても抑留し又は拘禁することができない。接受国は、相応な経緯をもつて外交官を待遇し、かつ、外交官の身体、自由又は尊厳に対するいかなる侵害をも防止するためすえての適当な措置を執らなければならない。

外交関係についてのウィーン条約

 

直接出国を規制している条文ではありませんが、

出国の禁止はとくに29条の身体の不可侵にあたると解釈できそうです。

 

ルールが適用される?されない?

さて、いま見た2つの文書。「宣言」と「条約」です。

先ほども書きましたが、

条約はその内容(ルール)に合意(批准)した国にしか適用されません。

 

世界人権宣言は、マレーシアは署名していますが、北朝鮮未署名

外交関係条約は、どちらも批准しています。

つまり、出国禁止措置は外交関係条約のルールを破っている!と言えます。

しかし、世界人権宣言は両国共通のルールではない…?

 

世界人権宣言に法的拘束力はあるのか

条約の場合、批准国は、そのルールに加わるわけですが、

そのことを法律用語で「法的拘束力がある」といいます。

法を守るべき主体であることを法主体性がある」とかいいます。

かたくるしいですね。

ルールを守らないといけないプレーヤーが「法主体」

ルールが適用されることを「法的拘束力がある」

ということです。

 

世界人権宣言国連総会の「決議」であり、ただの「宣言」と言えます。

条約ではない。

なので、法的拘束力があるのかが議論されます。

法的拘束力がある!という主張では、

「世界人権宣言は慣習国際法になる前段階の「ソフト・ロー」であり、

いまは慣習国際法となっている内容。だから法的拘束力がある!」

というものがあります。

よくわかりませんね。

現在は国際社会普遍のルールであり、まだルールになる前にそれをまとめた文書。

ということで…いいかな。

 

なので、署名していない北朝鮮も守るべきルールだ!と主張できるかもしれません。

ちなみに、当然と言えば当然かもしれませんが、

人権侵害問題があるとされる多くの国が、世界人権宣言や国際人権規約などの

人権に関する条約を批准していません。

 

 

マレーシアも同じことしてんじゃん

さて、一部に議論の余地はあるものの、

北朝鮮の「出国禁止措置」が国際法違反だとことはわかりました。

 

でもちょっと待って。

「出国禁止措置」が違反行為なら、

マレーシアがやった仕返しの「出国禁止措置」も違反行為じゃね?

そんな「目には目を」な世紀末状態で大丈夫なの21世紀国際社会!?

と思うかもしれません。

思いましょう。

 

そこで、次に国家間紛争の解決について考えます。

 

国家間「紛争」…こわい

紛争と聞くとサブマシンガンでババババッという印象ですが、

まあ紛争っていうのはトラブル全般です。

個人間なら被害を訴える人が裁判所に訴えて、

民事裁判を行って白黒つける類のトラブルです。

国家間ですと、サブマシンガン出てくる武力紛争もはいっちゃうんですけどね。

 

今回は、ルール違反(国際法違反)だどうだという揉め事と考えましょう。

条約の中には、その条約自体に「トラブルはこう解決してね」っていう条文が

あることもありますが、なければ適用されるルールがあります。

それがさっき一旦置いといた③国家責任です。

 

国家責任

ざっくりと書くと、国家責任とは、国際義務違反や、

国際義務を履行しない場合に発生する法律上の責任です。

やっちゃだめって決まっていることをやっちゃった、

やらなきゃいけないって決まってることをやらないときに生じる責任です。

 

堅苦しく言うと、

違反行為があったこと(客観的要件)と、

その行為がやった国に帰属すること(主体的要件)、

これらが認められた時に、責任が発生します。

また、必要かどうか議論がありますが、

違反国に過失や故意があること(主観的要件)も要件だとする主張もあります。

 

今回の両国がとった出国禁止措置は、

条約違反の行為であり(客観的要件を満たす)、

明らかに両国政府がアナウンスしてとってる行為(主体的、主観的とも満たす)、

つまりどの要件もバッチリ満たしています。

 

ってことは、マレーシアも責任発生して、もうカオスじゃん。

となるのですが、ここでマレーシアがとった出国禁止措置の違法性が

おとがめなしになる可能性があります。

「違法性阻却事由」があるかもしれないからです。

 

違法性阻却事由

これも法律用語です。もうさっきから堅苦しすぎてやばいですね。

字面通りの意味なんですが、

ある行為の「違法性」が「ないこと(阻却)」になる理由(事由)です。

いろいろあるんですが、

今回あてはまりそうなのは、「対抗措置」という類型です。

 

対抗措置とは

「対抗措置」とは、ある違反行為で被害を受けた国が、

その違反行為をやめてもらうためにとる対抗措置のことです。

 

A国がとったある違反行為Yが、

他国B国がとった国際法違反行為Xに対する制裁措置であり、

違反行為Yをする前に、

B国に「違反行為Xをやめてください」と停止を要請しており、

またその違反行為Xでこうむった被害の賠償を請求していて、

この停止と賠償をしっかり行ってもらうために、違反行為Yを行った。

そしてこの違反行為Yは、違反行為Xとほぼほぼ同レベルの違反行為である。

…という基準を満たしていれば、「対抗措置」として違法性阻却事由が認められ、

B国の違反行為Yはおとがめなしです。

 

あてはめて考えてみる

北朝鮮の「出国禁止措置」は、違反行為です。

これに対して、マレーシアも「出国禁止措置」をとりました。

この間数日。

 

…ちょっと素早すぎですね、「対抗措置」になるのでしょうか。

 

「出国禁止措置やめてください」という停止要請を十分にしたのか

→不明。報道を見る限りではそんなに言ってない。

外交ルート(両国とも大使いないんでぐだぐだですが)で

何かメッセージは通達したと思いますが…

 

「賠償請求」したのか

→不明。北朝鮮にいるマレーシア人のほとんどが、

大使館職員や国際機関のスタッフということで、

賠償請求すべき被害がなんなのかハッキリわからないですね。

この案件で、いま個人の精神的苦痛の賠償金とか請求しないと思いますし。

 

「同程度か」

同じことしてるんで、字面では同程度ですね。

ただ、北朝鮮にいるマレーシア人は十数名と言われていますが、

マレーシアにいる北朝鮮人は1000人くらいいる、といいます。(BBCの記事参照)

www.bbc.com

影響が同程度かというと、マレーシアの出国禁止措置のほうがデカいです。

 

そもそもの経緯を鑑みる

国際法でも、国内の裁判所の判決とかであるように、事情を判断します。

今回の北朝鮮の出国禁止措置は、

前回記事で取り上げたマレーシアの3つの措置や、

金正男氏の遺体を引き渡さないこと、

「無実」の北朝鮮人を不当に殺人事件の犯人だと「でっち上げ」、

北朝鮮と同国国民の安全を脅かしているマレーシア政府への対抗措置

というスタンスがあります。

 

このスタンスが認められるかというのを、

暗殺事件の経緯を鑑みて判断しつつも、

この事件とは直接は無関係の北朝鮮の悪行による印象に引きずられすぎないように

判断すべきです。

 

…マレーシアの出国禁止措置は文句なしに対抗措置!とは言えないかんじです。

ただ、ことの発端が金正男氏暗殺事件であり、

それに北朝鮮公人の関与が疑われているという経緯から、

マレーシアの非がとがめられる可能性は低いのではないでしょうか。

 

 

まとめ

まあでもたぶんマレーシアの「出国禁止措置」はそんなに怒られないよ。

というのが私の予想です。

北朝鮮がこれまでに圧倒的に悪いことしすぎてるので、どうしても心象が。笑

 

ヒューマンライツウォッチや市民団体が、

国家間の揉め事にこうやって市民を巻き込むべきじゃない!

として両国を非難する可能性は高いですが。

 

最後に今後の展望ですが、

こじれこじれて国交断絶というのが、現実的な最悪のシナリオでしょう。

武力紛争(戦争)は非現実的です。

ある程度この状態が続いて、出国禁止措置などが一部緩和ではないでしょうか。

 

以上、今回もハンパな国際法の知識を駆使して、

ニュースでは専門家が

北朝鮮の今回の措置は国際法・外交上の違反行為ですのでー」

と一言で片づけてしまうその中身、ルールを見てみたわけです。

堅苦しいものなので楽しい、とは思われないかもしれませんが、

興味深い、とか思っていただけると、

こういうことばっか勉強してた柑橘さんとしてはちょっとうれしいです。

 

そろそろ楽しい内容の記事を書きたい。笑

では、¡Hasta próximo articulo! 

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